トヨタ自動車(本社豊田市)はミャンマーの新しい組み立て工場でピックアップトラック『ハイラックス』の生産を開始、今月から販売会社が受注を開始したと報道各社が発表した。同社ウェブサイトではこの件のニュースリリースを掲載していないが、何らかの報道発表をしたものとみられる。同工場は2021年2月から稼働する計画だったが、ミャンマー国軍による軍事クーデターが起きたため延期していた。今、アウンサンスーチー氏の刑期延長など国軍の強権的姿勢が和らぐ気配のない中で、国軍への支援に繋がりかねないトヨタの経営判断について報道機関や民間団体などから疑問の声が上がっており、個人的にも強く違和感を覚える。
トヨタ自動車は2019年5月、同社としてミャンマーで初となる車両生産会社Toyota Myanmar Co., Ltd.を設立し、2021年2月よりハイラックスを現地生産すると発表した。それによると新工場は、最大都市ヤンゴンの南部近郊に位置するティラワ経済特区に建設、投資額は約5,260万米ドルを見込んでいる。新規雇用は約130人で、2021年の稼働当初はSKD(セミノックダウン方式)でハイラックスを年間能力約2,500台で生産する計画。日本経済新聞は、トヨタが8月下旬にティワラ経済特区の管理当局に生産の開始を届け出を行い、月間生産台数数十台規模で9月から生産を開始したと報道した。
矢野経済研究所は10月14日付けコラムで、「はたして世界の理解は得られるのか」とトヨタの経営判断に疑問を呈した。コラムによれば、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチは日本がODAの一環として供与した旅客船3隻が軍事転用されていると指摘、「日本政府は人道支援以外の開発支援を停止し、深刻な人権侵害に関与した国軍に対して制裁を課すべき」と声明を出した。また、新規ODAは停止しているものの、既存のODAを継続しているのは「経済制裁に対して中途半端」と評価し、「あらゆる外交手段を駆使して国軍に圧力をかけるべき」と提言。さらに、内政不干渉を原則とするASEANですら国軍トップの出席を2年連続で拒否、暴力の即時停止を求めていると指摘。コラムでは最後に、トヨタフィロソフィー“1秒1円にこだわる”を挙げ、「しかし、“人の幸せについて深く考える”との記述もある。新たに生産されるハイラックスが後者につながるものであると願いたい」と結んでいる。
日本経済新聞によると、ミャンマーに進出したグローバル企業では、海底ガス田を手がけていた仏トタルエナジーズ、米シェブロン、携帯通信事業者ではノルウェーのテレノール、カタールのウーレドゥーが相次いで撤退を決めた。軍の統制下にある政府当局から干渉を受けたり、軍の支配を支える収入源になる懸念が生じていたためという。日本企業では、スズキがティワラ経済特区など2カ所にミャンマー工場を持っているが、外資不足で必要な部品を購入できなくなるという経済的理由で7月から生産を一時停止している。日本企業は欧米企業とは違い、残念ながら軍政うんぬんより経済優先の経営判断でミャンマーで事業を進めている気がする。アウンサンスーチー氏が解放されていない国軍の支配するミャンマーで、トヨタなど日本の自動車メーカーが車を生産することに果たして世界の理解は得られるだろうか ?